国語の試験が開始した。いつも通り深呼吸をして、ゆっくりと冊子をめくる。だが、いつもと違う。冊子をめくる手が震えている。センター試験でも早稲田の入試でも震えていなかった手が震えている。だいぶ前から覚悟は決めていたはずだったのに、体は正直だ
。
落ちるのが怖くて怖くてたまらない。夢のはずだった京大がもうすぐ手の届くところまで来ているのだ。
問題を一通り見る。問題構成は評論、小説、古文だ。あれだけ対策をした文語文は今年も出ていない。
予定通り古文から解き始める。大きく話が二つに分かれており、問題文自体は平易だった。しかし、そこは京大。単なる暗記を頑なに拒むかのような鬼のような記述が待ち受けていた。
「何を言おうとしているのか」という問題は比較的スムーズに答えるものの、和訳問題の一部分の主語がどうしてもわからない。ただ、そこは冷静にとばして評論へと向かう。ここまで約30分。いいペースだ。
評論も比較的分かりやすい内容。知性に関する文章は一読しただけでなんとなく理解はできた。
しかし、いざ答えを書き始めようとすると細かいところで曖昧な部分が発生する。いちいち本文に戻って丁寧な確認をしながら、丹念に設問をこなしていく。
大体埋めたところで、時間は75分少し前。評論にかなり時間をかけてしまったが、全体的には予定通り。少し焦りつつも小説へと向かう。
が、やはり試験には魔物がすんでいるらしい。この小説が激しく難しかった。逆に現代文が得意な人ほど難しく感じたのではないか?それくらいとらえどころのない文章と設問だった。
一読した段階で設問に目を通しても、一問たりとも書き始めることができない。焦りはピークに達した。なんとしても埋めなければいけない・・・そう思えば思うほど思考は硬直した。
何度も何度も細かい部分まで丁寧にゆっくり読んで、一言一言確かめるように回答していく。今回の国語の全体の文章量が割りと少なめだったのは本当にラッキーだったようで、終了5分前にようやく小説問題の回答を埋めるのに成功した。
残りの時間で大急ぎで、ほとんど考えないまま空欄を埋め・・・あっさりと試験は終了した。
微妙な出来だったが、「ああ!やばすぎる!!!」というよりは「何とか終わった・・・」という感じだった。もちろんその直後にものすごい不安に襲われたが、何とか一科目を乗り切れたことである程度の落ち着きを取り戻すことができていた。
生協が主催していたお弁当をとりに吉田南の食堂に向かう。意外と量の多い弁当に少し驚きつつ、とぼとぼ一人で歩いていると、ものすごい孤独を感じた。
誰にも頼ることはできない・・・そう強く感じていた。
昼休みはかなり長かった。というかかなり長く感じた。前日やっていた数学の京大模試過去問の弱点ノートをぺらぺらめくりながら、かなり神経質になっていた。しかし、それは周りのライバルたちも一緒。二科目目は数学なのだ。
勝負を決める数学なのだ。
そんな張り詰めた空気の中、数学の入試が開始した。私は定石通り、問題を概観する
・・・・「
あれ!?なんか簡単じゃないですか???」
去年の超簡単数学を見ているとはいえ、まさか二年もあんなに簡単な問題が続くとは思いもしなかったが、教科書を少しひねった程度の問題が確かに目の前にある。
「これはミスが勝負をきめることになる」と感じ取った私は、一番簡単だと感じた1から丁寧に丁寧に解きはじめ、15分であっさりと完答する。次に2と4をゴリ押しして解き、3で少しつまるものの5は何故か完璧なタイミングで解法を閃き、瞬殺。
2,4のゴリ押しぶりが響いたのか、時間的にきつくなっていたので、3を何とかごまかしながら埋めたところで試験終了。
感触は4完半。もう気分は合格したかのようだ。おそらく5は文型はあまり解けている人はいないだろうから、合格者平均+一完くらいかなあ・・・てな余裕こきまくりで気分るんるんで帰りのバスへと乗り込む。
夜はホテルでディナー。もうどんな味がしているかわからなかった。それくらい興奮していた。明日が待ち遠しい。早く合格を決めたい。かってないハイテンションでふかふかのベッドにもぐりこんだ私は大体十時くらいにはもう夢の中にいた。
そうだ。このときの私には明日起こる嘘のような悲劇を予測することができるわけがなかったのだ・・・
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